昼休みの高架下は、エアコンの室外機と列車の駆動音が溶け合い、都会特有の低い唸り声をあげていた。灰色のアスファルトが膨らむ熱を跳ね返し、その上を歩く人々の影がめまぐるしく交差する。広告代理店で働く花は、弁当を作る余裕もなく、このところ毎日ここでアイスラテとチキンパニーニを買い、わずかな空き席を確保するのが日課だった。
ステンレスのカウンターテーブルにもたれ、紙袋を開く。香ばしいパンの匂いにほっとする前に、隣の席から滑り込んできた言葉が心臓を打った。
「今朝の山手線さ、晴れてたから東京タワーがくっきり見えたんだ」
五十代前後のスーツ姿の男が同僚に向かって笑っている。長い前髪を指でかき上げ、ネクタイを緩めながら話す姿は、どこにでもいる平凡なサラリーマン。だが、その何気ないフレーズは、大学に入った十八の春、家を出て以来会っていない父が毎朝のように送ってきたLINEとまったく同じだった。
花の胸に、写真と共に届いた短いメッセージが一斉に再生される——「空が高いぞ、頑張れよ」。そこに写る東京タワーは毎回角度が少しずつ違い、雲の形も光の色も変わっていた。忙しさを理由に既読すらつけなくなって久しいが、通知だけは切れなかったのは、メッセージの向こうで父が毎朝見上げた空を想像していたからかもしれない。
喉がかすかに震えた。父は今も都心の中堅商社に勤めるサラリーマンだ。畑も海も持たない、ただ満員電車に揺られている。それでも空の青さを誰かと共有したくなる心は、昔から変わらないらしい。幼いころ、休日のベランダで「雲は泳いでるみたいだな」と笑っていた父の横顔が浮かんだ。
花はスマホを取り出した。未読の通知がいくつも積み重なり、一番上には今朝六時、無人のプラットフォームと澄んだ空を背景にした東京タワーの写真があった。差出人は「父」。アイコンには、どこで撮ったのか、海辺でピースサインを決める父の顔。二十五の娘に似合わぬ可愛げだと笑ったのはいつだったか。
開くのが怖かった。けれど指は自然に画面を押し、青い既読マークが灯った。
——空が高い。今日もがんばれ。
シンプルな励ましが五年間の沈黙を破り、逆流するように血管を駆け上がる。耳の奥で列車が金属を軋ませ、高架橋を通過した。その振動が脈拍と重なり、花は紙コップの縁を強く握った。コーヒーはまだ半分も減っていないのに、氷が音を立てた。
何かをしなければ。応えなければ。そうでないとこの震えが自分の内側で永久に続く気がした。資料をプリントアウトする予定だった昼休みを放棄し、花は紙袋を握ったままカウンターを離れた。ビルのエレベーターは昼時の混雑で行列ができていたので、非常階段へ駆け込む。
鉄扉が閉じると、空調の音と遠ざかる街の喧噪だけが残る。白い蛍光灯の下、コンクリートむき出しの壁がひんやりしていた。花は深呼吸し、通話ボタンを押した。
コール音が二度鳴り、すぐに繋がる。
「おう、どうした?」
父の声は記憶より少し低く、しかし滑らかだった。電話口の向こうで電車のブレーキ音が遠くに聞こえる。花は言葉を探し、結局、さっき拾った台詞をそのまま口にした。
「今朝、東京タワー見えた? くっきりしてた?」
父は一拍置いてから、可笑しそうに笑う。
「だから写真も送ったろ? 寝坊か」
「うん……ごめん」
その瞬間、長いちゃぶ台の向かいで味噌汁を啜る父の姿がよみがえり、鼻の奥がつんとした。電話越しの父は、咳をしてから尋ねる。
「仕事、忙しいか?」
「忙しい。でも、今は大丈夫。お昼休みで」
「じゃあ、今度の土曜の朝、タワーが見えるカフェでコーヒー飲むか」
約束は、驚くほど簡単に決まった。花はスケジュールアプリを開き、空白の土曜に青いブロックを落とす。大学入学以来、一度も埋めなかった“父との予定”というタグに色がつく。
通話を切る直前、父が小さな声で付け足した。
「ずっと連絡できなくてごめんな」
花は首を振ったが、それは電波の向こうには届かない。ただ「私も」と重ねて電話を終えた。背中の緊張がほどけ、階段の手すりに体重を預ける。足元には陽射しが差し込み、ほこりが金色に舞っていた。
夕方、社に戻った花はデスクに着くやいなやオンラインショップを開く。父はブラック派だが酸味は苦手。そこから逆算して焙煎度合いを選び、ドリップバッグのセットとステンレスのタンブラーをカートに入れた。「ビジネス街でも使いやすい、指紋が目立たないマット仕上げ」という説明が決め手だった。送り先は父の職場。備考欄にメッセージカードの文面を入力する——
〈次の晴れた朝、このタンブラーで同じコーヒーを飲みながら東京タワーを見上げよう〉
送信ボタンを押した瞬間、胸の奥に温かい粒が落ちた。五年間無人だった連絡路に、小さな灯がともる音がした。
* * *
約束の土曜は、五月らしい陽光が街を洗っていた。空は薄い水色に透き通り、雲は糸のようにほぐれている。花は予定より三十分早く最寄り駅に着き、スタンドカフェの前で歩道を行き交うランナーや犬の散歩を眺めた。高架を走る列車が頭上を通るたび、鉄骨がわずかに鳴る。それは鼓動のようで、何度聞いても落ち着かなかった。
父は約束の五分前、軽く息を弾ませて現れた。グレーのジャケットに革靴、手には折りたたみ傘の代わりに花が送った銀色のタンブラー。髪に少し白いものが増えたが、姿勢は以前より真っ直ぐだ。
「待たせたな」
「私も今来たところだよ」
ぎこちない定型句が二人の間に浮かんで、照れ笑いになった。店員にタンブラーを預け、同じ豆で淹れたコーヒーを用意してもらう。紙フィルターを通る湯の匂いが立ちのぼり、ステンレスの器を温める蒸気が白く揺れた。
高架下のベンチに並んで座ると、東京タワーが頭上の隙間から覗いていた。朝日に照らされた赤白の鉄骨が空の青に際立ち、長い影がアスファルトに落ちている。父はタンブラーの蓋を開け、湯気を確かめるように鼻を寄せた。
「これ、軽いな。保温ボトルってもっとごついもんだと思ってた」
「最近は薄いステンレスで真空にしてあるんだって。中まで洗いやすいんだよ」
「便利な時代だな……」父は感心したように呟き、口を付けた。花も真似てすすり、舌の上に広がる苦味と微かな黒糖の甘みを感じる。豆を選ぶとき想像した味が、今同じ空の下で共有されていることに、体の奥がほぐれていく。
「仕事はどうだ?」と父が聞く。花はプロジェクトの進行や、深夜残業の多さをつい正直に話してしまう。父はうなずき、時折質問で合いの手を入れる。会社の役職や業務内容に詳しくないはずなのに、会話の隙間を埋めるタイミングは相変わらず絶妙だった。
「自分も同じくらいの頃は、午前様ばかりだったな。終電なくして同僚と歩いて帰ったり。まあ、がむしゃらに働く年も、ある」
「お父さんは後悔してる?」
「ん?」父はタンブラーを持ち直し、塔を見上げる。「後悔というより、懐かしいかな。頑張った分だけ、今こうして娘とコーヒー飲む時間がいとおしい。過去があってこその今、だろ?」
花は頷いた。忙しさに紛れて取りこぼしてきた会話が、今ここで少しずつ埋まる気がした。列車が通過するたびタンブラーが震え、その波紋が二人の沈黙を柔らかく包む。言葉がなくても、振動のリズムが呼吸を揃えてくれた。
コーヒーを飲み干したころ、父がビジネスバッグから小包を取り出した。中にはコンペイトウやソーダ味のラムネ、駄菓子屋で売っている小さな焼き菓子——かつて花が小学生の遠足に持っていった定番ばかりが詰まっている。
「探すの大変だったぞ。今はスーパーにあんまり置いてなくてな」
「懐かしい……まだ売ってるんだね」
「お前が子どもの頃、これ食べながら修学旅行のしおり書いてたの思い出してな」
花は笑い、包みに鼻を近づけた。砂糖と着色料の甘い匂いが、過去と現在を一本の線でつなぐ。ありがとう、と口にすると、父は目尻を少し緩めた。
別れの時間が近づく。父は改札へ向かうエスカレーターの途中で振り返り、言った。
「また連絡する。今度は夜景でも撮るか」
花は同じ角度で手を振り返す。電車の警笛が二人の間を貫き、日常へ押し戻した。それでも、胸の内で何かが明らかに形を変えている。
* * *
その夜、部屋のベランダに出ると、空は昼間より深い藍色に染まり、遠くで雲が月光を反射していた。スマホが震える。父からの写真——オフィスビルの窓に映る東京タワーのネオンだった。キャプションは短い。
——空が高いな。また来週もがんばれ。
花はカメラをベランダの手すりに置き、月の近くに光る飛行機雲を撮る。送信ボタンを押すと、画面に既読が灯った。都会の喧噪の只中で、空は青く、どこまでも高い。そこにいる限り、同じ空を見上げる父へ届くと信じられた。
列車の遠い走行音が夜気を震わせる——それは、今日二人を包んだタンブラーの小さな揺れの余韻のようだった。
* * *
翌週の月曜朝、花は始業前にビルの屋上へ上がり、まだ空気の冷たい都市の空を一枚撮った。東の端で太陽がガラスのように割れ、無数の黄金の破片がビルの壁へ散る。その写真を父に送りながら、花は思う——忙しさが減るわけではない。だが、見上げればいつでも同じ空がある。そう気づくだけで、今日のタスクの重さが少し軽く感じられた。
スマホが震え、父から「見えたぞ。こっちは少し霞んでいる」と返ってきた。同じ青を探すように視線を上げる。ビルの隙間で、東京タワーの先端が朝日に淡く染まり始めていた。

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