父の日の贈り物
6月の第3日曜日が近づいてくると、陽翔（はると）は心がそわそわしていた。中学生の彼にとって、今年の父の日は特別な意味を持っていた。なぜなら、単身赴任中の父、徹（とおる）にとって初めての父の日だからだ。
徹は3ヶ月前に新しいプロジェクトのために東京から大阪へと赴任した。家族全員で送り出したその日から、陽翔は家の中にぽっかりと空いた穴を感じていた。毎晩のビデオ通話で父と話すものの、実際に会えない日々は思った以上に辛いものだった。
母と姉の詩織（しおり）は陽翔の気持ちを理解しており、できる限り彼をサポートしようと努めていた。しかし、陽翔は一つのことを心に決めていた。それは、今年の父の日に特別なプレゼントを贈ることだ。
計画の始まり
ある日、陽翔は学校から帰宅すると、母と詩織がリビングで話し合っているのを見つけた。彼はその輪に加わり、父の日のサプライズ計画について相談することにした。
「お母さん、詩織姉ちゃん、僕、今年の父の日にお父さんに特別なプレゼントを送りたいんだ。何かアイデアはある？」陽翔は真剣な表情で尋ねた。
母は微笑んで答えた。「それは素敵な考えね、陽翔。でも、どんなプレゼントがいいのかしら？」
詩織は少し考えてから、「お父さん、最近忙しすぎてリラックスできてないんじゃない？何かリラックスできるものがいいんじゃない？」と提案した。
プレゼントの選択
陽翔は詩織の言葉にうなずき、「そうだね。お父さんはよく釣りが好きだったよね。釣り道具とかどうかな？」と提案した。
母はその提案に賛成した。「それはいいアイデアね。でも、ただの釣り道具じゃなくて、もっと特別なものにしようか。」
家族会議の結果、陽翔は高品質の釣り竿とリールをプレゼントすることに決めた。それに加えて、徹がリラックスできるように、自家製のレモンシロップと手作りのお菓子も用意することにした。
準備の日々
翌週、陽翔は放課後に近くの釣り具店を訪れた。店主は釣りの経験が豊富で、陽翔の話を聞くと、最適な釣り竿とリールを勧めてくれた。
「このセットは本当におすすめだよ。お父さんもきっと喜ぶはずだ。」店主は優しく微笑んだ。
家に帰ると、陽翔は母と一緒にレモンシロップを作り始めた。新鮮なレモンをたっぷり使ったシロップは、夏の暑さを忘れさせる爽やかな味わいだった。詩織は手作りのお菓子を焼き、家の中には甘い香りが漂った。
父の日当日
ついに父の日がやってきた。朝早く、陽翔と母、詩織は徹へのプレゼントを準備した。プレゼントは美しくラッピングされ、手書きのカードも添えられていた。
「お父さん、いつもありがとう。早く一緒に釣りに行こうね。」と陽翔はカードに書いた。
家族はリビングに集まり、ビデオ通話で徹と話す準備をした。陽翔は少し緊張していたが、同時に楽しみでもあった。
「お父さん、ハッピーファザーズデー！」と詩織が明るく声をかけた。
徹は笑顔で画面に現れた。「ありがとう、みんな。今日はどんな日かな？」
陽翔はプレゼントをカメラに見せながら、「お父さん、これは僕たちからのプレゼントだよ。早く使ってほしいな。」と伝えた。
喜びの瞬間
徹は驚きと感動の表情を浮かべ、「ありがとう、陽翔。これは本当に嬉しいよ。次の休みに必ず帰るから、一緒に釣りに行こう。」と答えた。
家族全員でのビデオ通話は、笑い声と温かい言葉で満ちていた。徹はプレゼントを受け取り、自分の家で釣り道具を使う日のことを夢見ていた。
エピローグ
その後、徹は週末ごとに大阪から帰宅し、家族との時間を楽しむようになった。彼と陽翔はよく釣りに出かけ、二人の絆はさらに深まった。母と詩織も家族での時間を大切にし、家の中にはいつも笑顔があふれていた。
陽翔にとって、この父の日は特別な思い出となり、家族の絆を再確認する素晴らしい機会となった。そして、徹にとっても、家族の愛とサポートを感じることができる最高の贈り物となった。
家族の絆は、距離や時間を超えて強く結ばれている。父の日の贈り物は、その絆をさらに強める大切なものとなり、陽翔はそのことを心から理解することができたのだった。